MAXI による中性子星合体からのX線放射の観測
2017年10月16日 MAXIチーム
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国際宇宙ステーション「きぼう」に搭載された日本の全天X線監視装置 MAXI は、2017年8月17日にアメリカの重力波望遠鏡Advanced LIGOとヨーロッパの重力波望遠鏡Advanced Virgoによって検出された重力波源GW170817に対してX線追跡観測を世界で最初に行い、重力波源の早期X線放射に対して上限値を求めました。MAXIは宇宙ステーションが92分の周期で地球を周回するごとに全天の約85%の領域からのX線放射を調べます。 宇宙ステーションの軌道の関係で今回の重力波源は発生直後には観測できない領域にあったため、最初の観測を実施できたのは重力波検出の4時間40分後でしたが、それでも可視光の対応天体が発見される10時間後よりも早く、発生源の位置を観測していたことになります。来年以降は、さらに多数の重力波が検出されると期待されています。それらに対してMAXIは世界中のどのX線観測装置よりも早く観測を実施し、中性子星同士、あるいは中性子星とブラックホールの合体において生じる超高速のジェットとガンマ線バーストの関係や、飛び散った中性子星のかけらの放射能と宇宙の重元素の起源の解明に貢献していきます。
GW170817は、重力波信号の特徴から中性子星同士の合体であると考えられており、重力波発生の直後には同じような方向から短いガンマ線バーストも検出されています。ただし、通常のガンマ線バーストは20億光年以上の遠方から発見されているのに対し、この重力波源は圧倒的に近い1億3千万年光年という距離にあるため、この短いガンマ線バーストは重力波源から放射された可能性は高いのですが、通常のガンマ線バーストよりはるかに弱い異なる種類のバーストと考えられます。ガンマ線バーストの放射源である光速にかぎりなく近い相対論的ジェットを斜めから観測したという説、光速の1/4程度の速度で飛び散る物質が作る衝撃波の放射、飛散物に含まれる重元素の放射能などの可能性が考えられ、今後の研究によって解明が進むと期待されます。
本研究は、新学術領域研究「重力波天体の多様な観測による宇宙物理学の新展開」、「重力波物理学・天文学:創世記」の支援の元に行われました。
図1 GW170817到来方向付近のMAXIによる X線マップ
重力波の到来方向の推定領域(等高線)十文字は10時間後に発見された光赤外線対応天体の位置を示す。明るい領域はMAXIが観測した領域で、一様なバックグラウンドはあるが、点状のX線源は存在しない。(a) 発生1分後に光赤外線対応天体SSS17aの方向を視野が向いていたが、観測が始まったのは3分後(12:44)だったためSSS17aを含む領域の観測が欠落している。(b) GW170817発生から4時間40分後に光赤外線対応天体SSS17aを視野の端に含むスキャンを実施したが、SSS17aからのX線は検出されなかった。(c) 10週目にはSSS17aを完全にスキャンしたが、やはりSSS17aからのX線は検出されなかった。
図2 MAXIによるGW170817のX線上限値と短いガンマ線バーストのX線残光
矢印のついた青い点がそれぞれの観測時刻においてMAXIによって得られたSSS17aからのX線強度上限値を示す。灰色の線は、過去多数の短いガンマ線バーストが仮にGW170817の距離で発生したと仮定した場合に観測されるX線残光の強度を示す。今回のMAXIの上限値は灰色の線より上にあるために短いガンマ線バーストの残光の有無を検証することはできなかった。しかし、 最初の1周で検出される場合の感度(赤い線)は十分高いため、将来に検出される重力波のかなりの場合について、短いガンマ線バーストの残光の検証が期待できる
図3 中性子星連星合体のシナリオと期待されるさまざまな放射。
- (a) 合体直前には回りながら近づく中性子星連星から重力波が放射される。
- (b) 合体直後、中性子星が合体して形成されたブラックホールの周りに取り残された一部の物質が降着円盤を形成し、2秒以下の短時間でブラックホールに吸い込まれるとともに、光速に近い相対論的ジェットが回転軸に沿って両側に放出される。ジェット方向に強いガンマ線が放射される(短いガンマ線バースト)。少量の物質は吸い込まれずに円盤のまわりに光速の1/4程度の速さで飛散する。ここから弱いガンマ線やX線が放射される。
- (c) ジェットは連星のまわりの希薄な星間ガスと衝突して衝撃波を形成し、そこから残光がX線や可視光などで放射される。その衝撃波も光速に近い速さで進んでおり、ジェット進行方向に近い方向からのみ観測できる。
- (d) ジェットは減速して残光が広い角度に放射されるため、回転軸から大きな角度離れた方向からも観測できるようになる。飛散物は広がって透き通ってくるため、飛散物から生成された重元素(rプロセス元素)の崩壊をエネルギー源とする放射「キロノバ」が見えてくる。
MAXIについて
MAXIは国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」船外プラットフォームに設置されたX線全天監視装置で、2009年に若田宇宙飛行士によって取り付けられてから8年間にわたって観測を行ってきました。X線で見える空に出現する新しい天体の発見や、さまざまなX線天体の突然の増光や変動を監視し、現在世界で盛り上がってきている「時間領域天文学」を先導するとともに、まさに勃興しつつある「マルチメッセンジャー天文学」(従来から用いられた光・電波・赤外線・ガンマ線などの各種電磁波に加えて重力波や宇宙ニュートリノなど多様な手段を活用する観測天文学)をX線領域で担っています。MAXIは宇宙ステーションの進行方向前方および上方に幅3度、長さ160度の細長い視野をもち、宇宙ステーションが地球を周回するのに合わせて、レーダーのように天球を掃いて行き、時々刻々変化するX線の空の景色を記録しつづけます。ある瞬間に観測できる領域は全天の2%ですが、軌道1周92分間で全天の約85%、1日16周で約95%、1ヶ月で100%をカバーします。観測データは常に自動的に解析され、新しい現象が出現したら直ちに世界中に通報を発します。また、ドライブレコーダーのように、突発現象が起きたあとに時間をさかのぼってデータを確認することもできるので、どこで発生するのか予測できない重力波に対応するX線の観測には最適の装置です。MAXIは当初の予定期間を超えて観測を行っていますが、現在稼働する唯一の全天X線監視装置として世界各国の望遠鏡・科学衛星と連携して天文学・宇宙物理学に貢献しており、今後の運用の継続を要望されています。例えば、今年MAXIが発見した新しいブラックホールに対して、国際宇宙ステーションで観測を始めた米国のNICER をはじめとする軌道上のほとんどのX線望遠鏡や多数の地上望遠鏡による観測が実施され、重要な成果が上がっています。
MAXI チームは、JAXA・理研・東工大・青学大・日大・阪大・宮崎大・中央大・京大などの研究者によって構成されています。
JAXA の MAXI のホームページ